生活の科学(第11話):美容、ヒアルロン酸

   今日のテーマは、「生命体は一つの化学反応系・組織である」と表現できます。この表現にはさまざまな情報が込められています。その中で最も注意をすべき情報の一つは「身の周りは化学薬品が溢れています。注意深く行動しないと大やけどします」です。
   その例が毎日新聞(5月10日)に報じられていました。「ヒアルロン酸を体の中に安易に注入するのはリスクがあります」と。これは、東京大学大学院医学研究科教授 畠山昌則氏のチームが米科学誌デベロップメンタル・セルに発表した結果からの教訓です。
   ヒトの乳腺細胞を使った実験結果は、『分子が大きいヒアルロン酸は乳ガンを抑制するので「善玉」として働くが、炎症組織などで分解酵素により小さくなった分子のヒアルロン酸はガン化を促進し「悪玉」として働く』という内容です。悪性度の高い乳がん細胞では、ヒアルロン酸の分解酵素が過剰に作られており、大きなヒアルロン酸を注入しても小さいヒアルロン酸に細分されてしまい、ガン化をさらに促進することが分かった、とあります。
   美容医療では皮下に注入して顔のしわ取りや、豊胸などに使われる。ヒアルロン酸を注入した組織が炎症を起こして、大きなヒアルロン酸分子が小さいヒアルロン酸分子になると、ガン化のリスクは高まる、と新聞は警鐘しています。
   また、「化粧水などに含まれるヒアルロン酸については、皮膚から体内に吸収される可能性はほとんどない」と新聞にはあります。

   私のような人間はついつい次のように考えます。皮膚に塗ったヒアルロン酸が体に吸収されることなく効果があるのなら、ヒアルロン酸を皮膚に塗る意味は何だろうと。皮膚薬は皮膚から吸収されて効果を現わすはずだと。厳密には、「皮膚から吸収されるヒアルロン酸は少量なので、正常細胞がガン細胞に変化する可能性は体内に注入する処置に比して小さい」、と理解する。表現の微妙な違いを理解していただけると有り難いです。皮膚には本来存在する分子なのですから、ポイントとなるのは炎症を起こさせない処置の気がします。

   最後にヒアルロン酸に関する情報をWikipediaからつまみ食いをしておきます。
   ヒトや脊椎動物では広く分布し、皮膚、関節、眼球の硝子体に多い。ヒトではヒアルロン酸の半分は皮膚に存在する。脳など広く生体内の細胞外マトリックスに見られる。
   皮膚では水を保水する能力によって乾燥を防ぐ。細胞組織を保護する。また水分保持によって粘性を示し、関節の摩耗をなくす。関節軟骨では、アグリカン、リンクタンパク質と非共有結合し、超高分子複合体を作って、軟骨の機能維持に極めて重要な役割をしている。
   ヒアルロン酸は、悪性胸膜中皮腫の腫瘍マーカーであり、胸水でのヒアルロン酸の検出はこれを示唆する。早老症において尿中ヒアルロン酸濃度が高くなる。肝硬変では血清中のヒアルロン酸濃度が上昇する。

   以上がつまみ食いです。ヒアルロン酸はこのように重要な働きをする一方で、尿や血液中で高濃度で検出すると病気のマーカーにもなる分子です。ヒトを含む生命系は精妙な化学系であることを意識して欲しく思います。

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